今春完成した「平安通の家」の敷地は大通り添いの商業地区と、この地域が農村だった時代の細く曲がりくねった道が残る住宅地の境界にあります。
既存宅の南側に建っていた納屋等を解体した跡の、間口にたいして奥行きの深い敷地に、細長い平屋住宅を挿入するように建てました。
垂直と水平に伸びる白いスラブと、ベイスギの無垢材を張り巡らした外壁、ベルギーの街なかで使われていた不揃いなピンコロ石。厳選した素材の対比が緊張感をもたらしつつ、それぞれの材料が重ねて来た年月や記憶がこの家のファサードに趣を与えています。
LDKは施主が幼少期に住われていた旧家に対峙する様に配置。
新居と旧家の狭間にある庭は、以前から残っていた灯籠やマツの木等を生かしつつ、過去と現在をつなぐ媒体として仕立て直しました。
北面に設けた大開口からは日中を通して柔らかい光がふんだんに室内に採り込まれ、落ち着いた印象をもたらしています。
旧家の側から見た新居の夕景。背後に見える高層マンションがこの家のロケーションを如実に物語っていますね。
ちなみに造園は「A new garden」の山口君。コツコツと丁寧にそして庭に対する情熱で、とても素晴らしい庭が完成しました。
ガラス張りの天井からキラキラした自然光が降り注ぐバスルーム。
周囲からの視線に晒されることなく、開放的な雰囲気のなかで朝風呂に入ったら気分が良さそうです。
この平安通の家ではレトロとモダン、その両方が同時に存在する様な空間を創り、これから未来に向けて、住い手の歴史が引き継がれて行くシーンを想像しながら設計を行いました。
時を重ねて、この地に欠かせない景色の一部、歴史の一部として埋め込まれていく事を祈りながら見守って行きたいと思います。
(写真撮影:アーキフォトKATO)